「40歳からの学び直し」が転職に不可欠な理由

「どうすれば、一生食べていける人材になれるのか?」誰もの頭を一度はよぎるこのテーマ。

前回の投稿では「40歳定年制」の時代が来る前に何をしておくべきかを考えました。今回は、元気はあるのに「スキルがない60歳」にならないために取るべき行動について考えます。

日本の雇用形態はおかしい

日本の労働マーケットの問題について、働き方という点で、今の日本には「雇用の多様化」や「学び直し」といった政策が必要です。

40歳定年制の背景にもありますが、今の日本は雇用形態が「短期雇用」か「定年まで雇用」か、という2つの選択肢しかありません。短期雇用契約の場合、原則3年または5年契約が上限です。そうでなければ、基本は定年まで働く「期限の定めのない」雇用契約です。これをもう少し多様化して、10年契約とか20年契約を可能にする政策が必要です。

10年や20年単位の「中期雇用」の導入をできるだけ認める形にしていかなければ、多様な働き方はなかなか実現できません。たとえば、期限の定めのない雇用契約は難しいけど、20年なら雇えるという人が、今の非正規の短期雇用契約しか受け入れ口がなく働けていないとしたら、もったいないことです。女性の活躍という観点でも、結婚や出産に合わせて変化しやすくするためには、雇用契約の多様化が有効です。

「学び直し」については「雇用契約の多様化」と「学び直しの機会の提供」はセットでなければなりません。たとえば、20年契約ができたとしても、45歳とかでその契約を打ち切られてしまったら、その後はどうすればいいのかという心配があるわけです。そもそも長く活躍するためには、スキルアップも図っていく必要があります。だから、ある程度、政府の補助を受けて、きちんと新たなスキルを身につける「学び直し」が必要不可欠なのです。

「もっといいところで働けるチャンスが広がる」という流れを作っていく必要があります。たとえば、100年とか200年先のことを考えたら、絶対に40歳定年制のような形になっていくと思います。もし寿命が200年とかになれば、1つの会社で雇用すること自体が不可能だからです。

ただ、もう少し短いスパンで考えたときに、この政策が実現するためには兼業や副業が必要になります。会社を移ることはそんなに簡単なことではないですし、「そこで活躍できるかもわからない」などの不安も多々あります。でも「副業」をやってみれば、ある程度トレーニングして能力も身につけられ、その職場で働くのが向いているか、楽しいかということも分かってきます。それを踏まえて、転職先でうまくいくのであれば、軸足を少しずつそちらに移していき、どこかで切り替えて、本業をそちらに移していくような形にすれば、断崖絶壁から飛び降りるようなことにはなりません。兼業や副業がもっと普及すれば、ソフトランディングが可能となります。悲壮な決意を持った転職ではなく、もう少しスムーズに、ある意味気楽に他のスキルを身につけたり、転職をする機会を見つけたりできる必要があります。兼業・副業を通じて、世の中は少しずつ変化していくのだと思います。

「スキルがない60歳」にならないために

一方で、この「副業を通じた学び直し」という考え方は、今の年配者からすると、まだリアリティがないと思うところもあります。というのも「なんでわざわざもう1回学ばないといけないんだ。今の会社のままでいい。それに今から学び直しなんて、本当にできるのか?」と思っている方も多いと思うからです。

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50歳、60歳ぐらいの人が、これからの社会で活躍し続けられるような能力をどうやって身につけていくのかというのはかなり大きな課題です。でも、それはもう避けられません。日本は今後、労働人口が減っていくこともあり、人手不足が進んでいきます。ただ、いくら人手不足でも能力がないと働き口はありません。だから、学び直しやリカレント教育が必要なのです。

今の60歳の人はすごく元気なので、体力的には問題ありません。問題はスキルの陳腐化の方です。ずっと同じ仕事だけをやっていて、自分はこれ以外できないと思い込んでいる人もいます。そうなると、採用する側としては「この人は使い勝手悪い」ということにならざるをえないのです。でも、本当は他でも活躍できる人は多いと思います。もう少し発想を切り替えて、能力を身につけて、元気に活躍できる50歳、60歳をつくっていかないといけないのです。

転職できない人がおちいる罠

40歳定年制のいいところは「キャリアの節目」を設定してくれていることです。事前に「あと5年で40歳。定年になるぞ!」とわかることで、それまでに次の準備ができます。

でも、そのとき一番難しいのは「自分の市場価値が何によって決定されるのか」がわかっていないことです。「市場で評価されるかどうかわからないスキル」を鍛え続けても、誰も幸せになりません。つまり、意外とほとんどの人が40歳で転職するのが決まっていても、何をすればいいかわからないのです。

その判断軸を知るためには、市場価値の要素を3つに分解します。具体的には、四角い箱で整理します。

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40歳定年制になった場合、かなりの人数は同じ会社で再雇用されることが考えられます。仮に40歳定年制が導入されたとしても、実際に転職するのは3割ぐらいなのではないでしょうか。やっぱり会社はうまくいってる人であれば、その人に働き続けてほしいと思うわけです。ただ、うまくいってない人も会社にはいます。そういう傾向は、40歳定年制でなくても、実は実質的には今でも起こりつつあります。それを「告知する」のが少し遅いのです。「本人が転職できる時期」と「会社がこの人ちょっと無理かなと判断する時期」にズレがあるのです。そこが難しいところです。

だからこそ「キャリアの節目」の設定が必要なのです。

転職は自分の「市場価値」を上昇させる

40歳定年制が実現して転職が今より活発になれば、社会に「比較優位」をもたらすようになります。

私は新卒ではテレビ番組の制作会社でアシスタントディレクターをやっていました。そのときの「コミュニケーション能力」は多分普通の人より「ちょっとある」程度だったと思います。でも、転職し、システムエンジニアになって、客先で要件のヒアリングとかをするようになると、意外とクライアントと話せる人は少ない。コミュニケーション能力が相対的に一気に上手になったわけです。

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これはアシスタントディレクターでは「そんなに価値はなかったもの」が、こちらに転化させたとたんにすごく価値が出たということです。これは経済学でいうと「比較優位」の話です。だから私は転職は「比較優位を世の中にもたらすこと」でもあると感じています。

異業種にいるとそんなに特別な才能と思えないものが、別の産業や企業に行くとすごく役に立つみたいなことはいっぱいあると思います。特に中小企業へ行くと、ありふれた能力に見える人材が不足しているところはたくさんあって、マネジメントの経験や経理の経験、高度な営業の経験などは不足していたりします。なので、自分が本当に必要とされるところを見つけることが大切です。

そのときに、重要になるのは「本当にその会社が合うか」ということと、もうひとつは給料ということになります。給料はいくらでもいいといえば、雇ってくれるところが見つかる可能性は高まりますが、今の会社の「そこそこの給料」を犠牲にしてまで転職して本当にいいのかと考えてしまいます。だからこそ、自分の「市場価値」を設計していく必要があります。

「伸びる産業」に行くべき理由

若い人は成長産業に行ったほうがいい。成長産業は働く人が座れる「イス」の数が増えているし、新しい技術も身につきます。一方で、成熟している産業は、そもそも「イス」が少なくなっているし、そこで身についた技術は今後他では通用しません。しかも、そこにあふれている年配者もたくさんいるので、若い人にチャンスがまわってきづらいのです。だから、若い人ほど、伸びている、または今後伸びる産業に行った方がいいのです。

昔は伸びている産業に会社自体が進出してくれたから、自分が行かなくても、会社が連れて行ってくれました。だから、ただ会社にいればよかったのです。でも今は、M&Aによって伸びている産業にいる会社を買うことで進出します。その結果、買収元の会社の人は伸びている産業に行けない状況になっています。もう「会社は連れて行ってくれない」ということです。

だから、新しく活躍する場を作ろうと考えている若い人は、そういう成長機会のあるところに仕事を見出した方が、チャンスが広がります。

「社内失業者500万人」時代を生き抜くための職業人生設計に続きます。

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